はじめに:その壁を突き破れ! 最も尖っていた初期B’z
1990年2月21日、B’zは3枚目のアルバム『BREAK THROUGH』を世に放ちました。 前作『OFF THE LOCK』でポップな側面を開花させた彼らが、今作で目指したのはタイトル通りの「突破(BREAK THROUGH)」です。
ジャケット写真を見て驚く人もいるかもしれません。肩パッドの入ったスーツ、派手なヘアスタイル、そして自信に満ち溢れた表情。まさにバブル景気末期の日本の勢いを象徴するようなビジュアルです。しかし、中身はそれ以上に強烈です。
1stから続く「デジタルビート(打ち込み)」と「ハードロックギター」の融合は、本作で一つの完成形を見ます。B’z史上、最もBPM(テンポ)が速く、最もダンサブルで、そして最も攻撃的なアルバムと言っても過言ではありません。
この記事では、初期B’zの最高傑作との呼び声も高い『BREAK THROUGH』を全曲レビューと共に深掘りします。謎のコンセプト「B.U.M」とは何だったのか? 稲葉浩志が挑んだ初期ラップの評価は? ブレイク直前の熱量をそのままパッケージした名盤を紐解いていきましょう。
『BREAK THROUGH』はデジタル・ハードロックの最高傑作
本作の最大の特徴は、徹底して作り込まれた「デジタルサウンド」です。次作『RISKY』からは生ドラムや海外レコーディングの要素が混ざり始め、より有機的なバンドサウンドへと移行していきますが、『BREAK THROUGH』はあくまで「打ち込み」にこだわっています。
しかし、その音は冷徹ではありません。プロデューサー・明石昌夫の手腕により、ダンスミュージックの高揚感(ユーロビートやハウスの影響)と、松本孝弘の唸るようなギターサウンドが奇跡的なバランスで融合しています。
「ロックバンドが生楽器を使わないなんて邪道だ」という当時の批判を、「カッコよければいいだろう?」と言わんばかりの圧倒的なクオリティでねじ伏せた作品。それがこのアルバムの本質です。B’zが「B’zというジャンル」を確立した最初の瞬間だったのかもしれません。
コンセプト集団「B.U.M」とは何だったのか?
アルバムのブックレットや歌詞カードに頻繁に登場する「B.U.M」というロゴ。これは「B’z Underground Management」の略称です。
当時、松本孝弘はB’zを単なる2人組ユニットではなく、「楽曲制作からアートワークまでを統括するクリエイター集団」として見せたいと考えていました。既存のバンド形式へのアンチテーゼであり、自分たちが音楽をコントロールする側であるという意思表示でもありました。

このアルバムの1曲目に収録されている「LADY-GO-ROUND」の冒頭には、ボイスチェンジャーで加工された「Welcome to the B.U.M show…」というナレーションが入ります。これにより、リスナーは一気に「B.U.M」という架空の組織が支配する近未来的な音楽ショーへと誘われます。
この演劇的とも言えるコンセプト作りは、TM NETWORKの影響を感じさせつつも、B’z独自の「遊び心」と「戦略性」が垣間見える重要なポイントです。
【全曲レビュー】突き抜けるような疾走感と哀愁
それでは、全11曲(実質的な楽曲を含む)をレビューしていきます。捨て曲なし、ノンストップで駆け抜ける30分強の体験です。

1. LADY-GO-ROUND
3rdシングルであり、アルバムの幕開けを飾る重要曲。百人一首の「こひしかるべき~」というフレーズを歌詞に取り入れ、和洋折衷な世界観を作り出しています。サウンドは当時流行していたユーロビート(PWLサウンド)を意識したダンサブルなものですが、そこに松本のテクニカルなギターが乗ることで、唯一無二の「B’zサウンド」になっています。歌詞の「回る回る」という感覚は、まさに時代の高揚感そのものです。
2. B.U.M
短いラップのような語りのトラックです。「Here comes B.U.M…」と宣言し、次の曲への期待感を煽ります。アルバム全体の構成を引き締めるための、重要なブリッジ(繋ぎ)の役割を果たしています。
3. BREAK THROUGH
アルバム表題曲。タイトルの通り、何かを突き破ろうとする強い意志を感じるハードなナンバーです。サビのメロディはキャッチーですが、バックの演奏は非常に攻撃的。特にギターリフの切れ味は鋭く、初期の松本孝弘の「尖り具合」を堪能できます。「現状維持ではいられない」という当時の彼らの焦燥感と野心がそのまま音になっています。
4. BOYS IN TOWN
ライブ映えするアップテンポなロックナンバー。歌詞に出てくる若者たちの姿は、渋谷や六本木で遊ぶ当時の「BOYS」たちでしょう。「教科書」や「大人」への反発を描きつつも、どこか享楽的な雰囲気が漂うのが初期B’zらしいところ。サビのコーラスワークが美しく、一緒に歌いたくなる一曲です。
5. GUITARは泣いている
タイトルが全てを物語っています。ブルージーなギターソロから始まり、哀愁漂うメロディが展開されます。歌詞は失恋ソングですが、「ギターが泣いている」という表現を使うことで、ミュージシャンとしての松本のアイデンティティと重ね合わせて聴くことができます。デジタルビートの上で、ギターだけが人間味を持って泣いている対比が美しい名曲です。
6. LOVE & CHAIN
シングル「LADY-GO-ROUND」のカップリング曲ですが、ファンの間では表題曲以上に人気が高い隠れた名曲です。独特のマイナー調のメロディと、サビでの転調、そして中毒性のあるリフ。束縛と愛の狭間で揺れる歌詞は、稲葉浩志のセクシーな歌声と相まって、危険な香りを漂わせています。ライブでのパフォーマンスも非常に評価が高い一曲です。
7. となりでねむらせて
ミドルテンポのバラードかと思いきや、サビで一気に熱くなるラブソング。初期の稲葉が得意とする「少し弱気な男の独占欲」が描かれています。派手さはありませんが、メロディの良さが際立っており、アルバムの中盤で聴くとホッとするような安心感があります。
8. HEY BROTHER
ファンキーなカッティングギターが印象的な、ノリの良いナンバー。「Brother」という言葉は、後のB’zファン(Brother)を指す言葉としても定着しますが、ここでは男同士の友情や連帯感を歌っています。ホーンセクション(シンセブラス)が多用されており、ビッグバンドのようなゴージャスな雰囲気を持っています。
9. 今では…今なら…今も…
アルバム中、最も美しいバラードです。タイトルが示す時系列(過去、現在、未来への未練)を、切々と歌い上げる稲葉の表現力が光ります。デジタルサウンドでありながら、ここまで感情を揺さぶるバラードを作れるのかと驚かされます。松本のギターソロも、音数を減らし、一音一音を大切に弾いているのが伝わってきます。
10. SAVE ME!?
個人的に、このアルバムのハイライトの一つだと思っている曲です。とにかくテンポが速く、スリリング。「誰か助けてくれ」と叫ぶ歌詞は、恋愛の泥沼を歌っているようでいて、多忙を極める当時の彼らの本音のようにも聞こえます。間奏のギターとキーボードの掛け合いは圧巻で、プログレ的な展開も見せるテクニカルな一曲です。
11. STARDUST TRAIN
アルバムのラストを飾る、疾走感あふれる名曲。「星屑の列車」というSFチックなタイトルですが、描かれているのは切ない別れです。サビのメロディの美しさは初期作品の中でも随一。ラストに向けてフェードアウトしていく構成は、この「B.U.Mショー」の終わりを告げるようで、強烈な余韻を残します。

稲葉浩志の「ラップ」と「歌詞」の進化論
『BREAK THROUGH』のもう一つの聴きどころは、稲葉浩志のボーカルスタイルの進化です。特に、この時期から積極的に取り入れ始めた「ラップ」には注目すべきでしょう。
現代のヒップホップ的なフロウとは異なり、当時のラップはまだ「歌の中のアクセント」や「語り」に近いものでした。しかし、「LADY-GO-ROUND」や「BREAK THROUGH」の曲中で聴ける早口のパートは、明らかに言葉をリズム楽器として扱おうとする新しい挑戦でした。
また、歌詞の世界観も前作『OFF THE LOCK』の日常路線から、少し「物語性」や「ドラマチックさ」が増しています。「STARDUST TRAIN」のような映画的な描写は、後の「ALONE」や「月光」といった壮大なバラードの作詞へ繋がる重要なステップだったと言えます。
まとめ:その壁を突き破れ! ブレイクへの滑走路
B’zのサードアルバム『BREAK THROUGH』を振り返ってきました。
このアルバムは、B’zが「売れるための実験」を全てやり尽くし、自分たちのスタイルを確立した記念碑的な作品です。デジタルビートとハードロックの融合、ラップへの挑戦、コンセプトアルバムとしての構成。それら全ての要素が、「BREAK THROUGH(突破)」という一つのベクトルに向かって爆発しています。
結果として、このアルバムはチャート3位を記録し、次作シングル「BE THERE」、そしてアルバム『RISKY』での大ブレイクへと繋がる「滑走路」の役割を果たしました。
- B’zの最もデジタルでダンサブルな一面を知りたい人
- 初期の「尖った」松本・稲葉の熱量に触れたい人
- 「LADY-GO-ROUND」しか知らないけれど、他の曲も聴いてみたい人
そんな方には、自信を持ってこのアルバムをおすすめします。30年以上前の作品ですが、その音に込められた「現状を打破してやる」というエネルギーは、今の時代に聴いても全く色褪せていません。ぜひ、B.U.Mのショータイムに身を委ねてみてください。


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