はじめに
日本を代表するロックユニットであるB’zが、これまでに発表してきた数多くのオリジナル・アルバム。その中でも、ファンの間で「最もヘヴィで混沌としている」「トラウマになる問題作」として語り継がれている作品があるのをご存知でしょうか。それが、2000年にリリースされた11枚目のアルバム『ELEVEN』です。
本作は、ミリオンセラーを記録した大ヒットシングルを多数収録しながらも、アルバム曲の多くが暴力的なまでの重低音やダークな世界観で構成されており、ポップなB’zを期待して聴いた当時のリスナーに大きな衝撃を与えました。しかし、その一切の妥協を排したサウンドメイクや、ロックバンドとしての限界に挑む姿勢は、聴き込むほどに味わいが増す「スルメ盤」として今なお熱狂的な支持を集めています。
この記事では、B’zの『ELEVEN』がなぜ問題作と呼ばれるのか、その制作背景や音楽的特徴を紐解きながら、全14曲の詳細なレビューをお届けします。B’zの奥深いハードロックの世界に触れてみたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
B’zの11thアルバム『ELEVEN』とは?世紀末を飾る問題作の全貌
『ELEVEN』は、2000年12月6日にリリースされたB’zの11作目のオリジナル・アルバムです。前年の1999年に発表された、硬質な生バンドサウンドを極限まで追求した『Brotherhood』の流れを汲みつつも、さらにオルタナティヴでヘヴィな領域へと足を踏み入れた作品となっています。
このアルバムの大きな特徴は、明確なコンセプトをあえて設けず、自由な創作衝動のままに制作された点にあります。アルバムタイトルも「11枚目のアルバムだから」という極めてシンプルで直接的な理由から『ELEVEN』と名付けられました。
- リリース日:2000年12月6日
- 売上記録:オリコン週間アルバムチャート1位、ミリオンセラー達成(累計約113万枚)
- 収録シングル:「今夜月の見える丘に」「May」「juice」「RING」
さらに、本作のジャケットデザインもファンの間で語り草となっています。ジャケットには、1994年のジャパンカップを制した実在の競走馬「マーベラスクラウン」が泥を跳ね上げながら独走する写真が使われています。CG加工によって馬名が「ビーズイレブン(B’z Eleven)」へと書き換えられており、メンバーの姿が登場しないという異例のデザインは、音楽業界を独走し続ける彼らの絶対的な立場を象徴しているとも言えます。

『ELEVEN』が「トラウマ級の問題作」と言われる理由
本作が「問題作」として評価が二分されるのには、いくつかの明確な理由が存在します。大ヒット曲が収録されているにもかかわらず、アルバム全体を通して聴くと非常に体力を消耗する特異な構成となっているためです。
暴力的なまでのヘヴィサウンドと「鬼歪み」ギター
本作のサウンドを決定づけているのは、松本孝弘氏による極めてディープに歪んだギター、いわゆる「鬼歪み」サウンドです。特に「愛のprisoner」や「コブシヲニギレ」といった楽曲では、地を這うような重低音のギターリフが楽曲全体を支配しており、その金属的で重厚なサウンドは聴く者を圧倒します。

さらに、ボーカルの稲葉浩志氏もこの重厚なサウンドに対抗するように、パワフルなシャウトやねちっこい歌唱法を前面に押し出しています。DVや絶望をテーマにしたような凄惨でダークな歌詞も相まって、「子供が聴いたらトラウマになる」と言われるほどの緊迫感と威圧感を生み出しているのです。
ラップからアジアンテイストまで混在するカオスな楽曲群
コンセプトを設けずに制作された本作は、楽曲のバリエーションが常軌を逸して幅広いことも特徴です。「煌めく人」ではB’zとしては極めて珍しい本格的なミクスチャー・ラップメタルに挑戦しており、「TOKYO DEVIL」ではサイケデリックなハードロックの最後に巨大なチャイニーズゴング(銅鑼)が鳴り響くというアジアンテイストを取り入れています。
ドラムスにブライアン・ティッシーや黒瀬蛙一、山木秀夫、ベースに満園庄太郎や明石昌夫といった多彩な凄腕ミュージシャンが曲ごとに入れ替わりで参加していることも、この多国籍でカオスな揺らぎを生み出す要因となっています。
大ヒットシングル曲との激しい落差
そして最もリスナーを驚かせたのが、ミリオンセラーを記録した「今夜月の見える丘に」や「May」といった聴きやすいシングル曲と、暴力的なアルバム曲との激しいトーンの落差です。
ヘヴィで息の詰まるようなロックナンバーが連続した後に、ふと美しいメロディのバラードが挿入される構成は、まるで荒れ狂う嵐の中で突然オアシスに辿り着いたかのような感覚を抱かせます。この極端な緩急の差が、アルバム全体のバランスをいびつに見せると同時に、唯一無二の魅力にも繋がっていると言えます。
『ELEVEN』全14曲レビュー:混沌と美旋律の交差点
ここからは、混沌と美しさが交差する『ELEVEN』の全14曲について、その魅力と聴きどころをレビューしていきます。
序盤:怒涛のヘヴィネスの幕開け

1曲目の「I」は、わずか24秒のインダストリアルな打ち込みによるインストゥルメンタルトラックです。不気味なノイズの中で「B’z ELEVEN」と囁く声が聞こえ、これから始まる混沌とした世界へのプロローグとして完璧に機能しています。
続く「Seventh Heaven」は実質的なオープニングトラックであり、ファンキーなギターリフとゴージャスなホーンセクションが絡み合う、本作の中では比較的ポップで明るいロックナンバーです。しかし3曲目の「信じるくらいいいだろう」から徐々に不穏な空気が漂い始めます。この曲はB’zとしては珍しくギターソロが存在せず、自分を拒絶した相手に執着する男の悲哀をリフ主体でねちっこく表現しています。
4曲目の「RING」は、先行シングルとして発売された和風テイストのロックバラードです。ストリングスと鈴の音が冷たく響き、サビで一気に情感が爆発するダイナミックな展開が秀逸です。そして5曲目の「愛のprisoner」で、本作のヘヴィネスは一つの頂点に達します。重苦しいリフとDVを思わせる凄惨な歌詞、ラストのドラムの倍テンポなど、すべての要素が研ぎ澄まされた緊迫感あふれる1曲です。
中盤:多様なジャンルが入り乱れるカオス

6曲目の「煌めく人」は、Rage Against the Machineを意識したとされる、全編ラップ調のボーカルが炸裂するミクスチャー・ロックです。続く7曲目の「May」は、大島康祐氏が編曲に参加した打ち込み主体の静謐なバラードであり、別れた恋人への未練を歌った歌詞が切なく響きます。この直後にライブ定番のむさ苦しいサマー・ハードロック「juice (PM mix)」が配置されており、そのジャンルの振り幅には驚かされます。
9曲目の「Raging River」は、演奏時間が7分半を超える大作バラードです。静かなピアノから始まり、後半にかけてストリングスやコーラスが加わって壮大な激流(Raging River)へと昇華していく様は圧巻の一言であり、ファンの間でも神曲として高く評価されています。10曲目の「TOKYO DEVIL」は、サイケデリックなバッキングと最後に鳴り響く銅鑼の音が強烈なインパクトを残す、異色のダーク・ロックです。
終盤:絶望から救済へのコントラスト
11曲目の「コブシヲニギレ」は、本作の理想形とも言えるヘヴィなファンク・メタルです。裏切り者に対する怒りを込めた歌詞とブチギレシャウト、そして間奏のブルースハープが凄まじいエネルギーを放ちます。
しかし12曲目の「Thinking of you」では一転して、温かみのあるミディアムバラードが展開されます。酔っ払って失敗した日常を歌うマイルドな空気感は、張り詰めた緊張感を和らげる極上のチルアウトトラックとなっています。
13曲目「扉」は3分未満の短い曲ですが、全編に鳴り響く電子ノイズとテンポの揺れが不気味な絶望感を描き出します。そしてラストを飾る14曲目「今夜月の見える丘に (Alternative Guitar Solo ver.)」の大ヒットバラードが、荒みきった心を優しく包み込みます。この圧倒的な絶望と救済のコントラストこそが、『ELEVEN』最大のハイライトと言えるでしょう。
ライブジムでの具現化と再評価

本作の楽曲群は、2001年に開催された全国ツアー「B’z LIVE-GYM 2001 -ELEVEN-」において、その真価を存分に発揮しました。西武ドームなどで行われたこのツアーでは、重厚な「愛のprisoner」からライブが幕を開けるという、非常に挑戦的でコンセプチュアルなセットリストが組まれました。
スタジオ音源が持つカオティックなヘヴィネスは、満園庄太郎氏や黒瀬蛙一氏といった鉄壁のリズム隊の演奏によって、ライブ空間で圧倒的なグルーヴへと昇華されました。長らく映像化が待たれていたこのツアーですが、2013年に結成25周年記念としてDVD/Blu-ray化され、後追いのファンにも『ELEVEN』という作品の凄まじさが広く認知されるきっかけとなりました。
まとめ
B’zの11thアルバム『ELEVEN』は、J-POPの王道を独走する彼らが、内なるロックへの衝動を隠すことなく爆発させた、極めて重層的なドキュメンタリーのような作品です。
美しいメロディと暴力的なまでの重低音が奇妙に同居するこのアルバムは、発売当時こそ多くのリスナーを困惑させました。しかし、商業的な成功に安住せず、自らのパブリックイメージを破壊してまでハードロックの極限に挑んだその姿勢は、B’zが真のオルタナティヴ・ロックバンドへと脱皮するために不可欠なステップだったと推測されます。
もしあなたが、普段の爽やかなB’zしか聴いたことがないのなら、ぜひ一度この『ELEVEN』の深く歪んだ世界に足を踏み入れてみてください。最初は戸惑うかもしれませんが、何度も聴き返すうちに、その圧倒的な熱量と強靭なロックサウンドの虜になるはずです。

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