デビューから35年以上、日本の音楽シーンの最前線を走り続けるB’z。数多くのヒット曲を持つ彼らですが、ファンの間で「生き物のように成長し続ける曲」として特別な位置づけにある楽曲をご存じでしょうか。
その曲の名は『Pleasure ~人生の快楽~』。
1991年にシングルのカップリング曲として発表されて以来、約5年ごとの周年のツアー「Pleasureツアー」で演奏されるたびに、二番の歌詞が書き換えられてきました。そこで描かれるのは、主人公の旧友である「あいつ」の人生です。結婚、孤独、逃避、そして再会……。「あいつ」の姿は、B’zと共に年齢を重ねてきた私たち自身の鏡でもあります。
この記事では、『Pleasure ~人生の快楽~』における歌詞の変遷を年代順に完全網羅し、「あいつ」が歩んできた波乱万丈な物語と、そこに込められたメッセージを深く掘り下げていきます。2023年の最新バージョンで彼がたどり着いた境地とは? その全貌を一緒に紐解いていきましょう。
B’zと共に歩む楽曲『Pleasure』とは何か
『Pleasure ~人生の快楽~』は、もともと1991年にリリースされた8枚目のシングル『LADY NAVIGATION』の2nd Beat(カップリング曲)として世に出ました 。
タイトルの「Pleasure」は、その後B’zのベスト選曲ツアーの名称(LIVE-GYM Pleasure)としても定着しましたが、この楽曲自体が持つテーマは、単なる「快楽」ではありません。若き日の夢と現実、変わっていく環境と変わらない友情、そして「止まれない世界で胸を張って生きる」という覚悟が描かれています 。
この曲最大の特徴は、二番のサビ前に登場する「あいつ」の近況報告です。ツアーが開催される数年ごとのタイミングで、稲葉浩志さんはその時々の時代背景や年齢感を反映させ、歌詞をアップデートし続けてきました。それはまるで、長編ドラマを見ているかのような感覚をリスナーに与え続けています。
【年代別】「あいつ」の人生クロニクルと歌詞の変遷
それでは、1991年のオリジナル版から2023年の最新版まで、30年以上にわたる「あいつ」の人生を追いかけてみましょう。かつて一晩中ギターと女の話で盛り上がっていた彼は、どのような道を歩んできたのでしょうか。
1991年~1998年:青春の終わりと孤独への転落
物語の始まりは、バブル経済の余韻が残る1990年代初頭です。学生時代のバンド仲間だったと思われる「あいつ」は、音楽の道を諦め、大企業への就職を選びました。

- 1991年(オリジナル版) あいつは「とうとう親父」になりました。土曜日の夜、電話越しに祝福の言葉を贈る主人公ですが、かつて重いマーシャル(アンプ)を運んでいた友が家庭に収まる姿に、時間の流れへの複雑な思いを抱き、唇を噛みます 。
- 1995年(Pleasure ’95) 親父になって5年が過ぎました。電話越しに「調子はどう?」と聞く主人公に対し、あいつの反応は芳しくありません。時間の流れに「何故かため息」をつくようになります。家庭や仕事の現実に疲れが見え始めた時期と言えるでしょう 。
- 1998年(Pleasure ’98) 衝撃的な展開が訪れます。あいつは「とうとうひとり」になってしまいました。離婚か、あるいは別の別離か。周囲からは「しょうがねえやつ」とからかわれますが、誰もがその姿に我が身を振り返るという、切実なリアリティが描かれました 。
20代後半で家庭を持ち、30代半ばで独り身に戻る。「あいつ」の人生は、決して順風満帆なサクセスストーリーではありません。多くの人が直面する挫折や痛みを、彼もまた経験していたのです。
2000年~2008年:逃避、そして守るべきものとの出会い
2000年代に入ると、「あいつ」は現状打破を求めて動き出します。迷走とも言えるその行動は、自分探しの旅でした。

- 2000年(Pleasure 2000) あいつは「全部放り出して旅に出て」しまいます。電話越しに「俺は自由をやっと手に入れたんだ」とわめく彼ですが、その口調は「ことさら強く」描写されており、本当の自由を得たのか、自分に言い聞かせているだけなのか、危うさを感じさせます 。
- 2003年(Pleasure 2003) いつしか内緒で長い旅から戻ってきていました。そして、「遠くに逃げるだけじゃ何も簡単に変わらない」という真理に気づきます。物理的に場所を変えても、自分自身が変わらなければ意味がない。40歳を手前にして、彼は現実と向き合う覚悟を決めたようです 。
- 2008年(Pleasure 2008) ここで大きな転機が訪れます。自分以外のことに興味を持てなかったあいつが、「生まれてはじめて守りたいものが見つかった」と主人公に告げます。かつての「親父になった」時とは違い、一度すべてを失い、悩み抜いた末に見つけた能動的な「守るもの」。それは彼の精神的な成熟を意味していました 。
2013年~2023年:沈黙を経て果たされた「再会」
守るべきものを見つけた後、二人の関係性はベタベタした付き合いから、互いを遠くで想う大人の距離感へと変化していきます。

- 2013年(Pleasure 2013) 歌詞は「音沙汰もないまま」と変化します。連絡が途絶えて数年が経ちますが、主人公は心配していません。「あいつもどこかで元気にやっているはず」と、信頼に基づいた沈黙が描かれています 。
- 2018年(Pleasure 2018) 忘れた頃にかかってきた電話で、あいつは「誰かのために生きる喜びを今さらながら知った」と語ります。2008年の「守りたいもの」からさらに一歩進み、自分の人生を他者に捧げることに喜びを見出す。利己的だった若者が、長い年月をかけて利他を知る大人へと成長を遂げました 。
- 2023年(Pleasure 2023) そして最新の2023年、ついにその時が来ます。 「何年ぶりだろ アイツとまた会えた」 歌詞の中で、二人は久しぶりの再会を果たします。あいつは「懐かしい笑顔」を見せました。そして続くフレーズは、これまでの全ての迷いや失敗を肯定するかのように力強く響きます。 「何が起きても自分次第 人はいつからだって新しくなれる」 。
2018年までの電話越しの関係から、直接の再会へ。コロナ禍という分断の時代を経て、物理的に会えることの喜びが表現されたこの2023年版は、35周年のフィナーレを飾るにふさわしい希望の物語となりました。
「あいつ」とは一体誰なのか? 3つの有力説を考察
ファンの間では長年、「歌詞に出てくる『あいつ』のモデルは誰なのか?」という議論が交わされてきました。公式に明言されているわけではありませんが、歌詞の文脈や稲葉さんのインタビューなどから、いくつかの説が考えられます。
- 実在の友人・スタッフ説 「大学時代の音楽サークル仲間」や「デビュー当時のスタッフ」をモデルにしているという説です。具体的なエピソードのリアリティから、特定の人物が念頭にある可能性は高いでしょう 。
- 稲葉浩志自身(あるいはメンバー)の投影説 「あいつ」の変化は、稲葉さん自身の人生観や、B’zとしてのキャリアの変遷と重なる部分が多くあります。自分自身を客観視した存在として「あいつ」を描いているという解釈です。
- ファン自身の姿説 これが最も多くの共感を呼ぶ説かもしれません。「あいつ」が経験した就職、結婚、挫折、再起は、そのままB’zと共に歳を重ねてきたファンの人生そのものです。ライブ会場でこの曲を聴くたび、私たちは「あいつ」の中に自分自身を見つけ、励まされてきました 。

おそらく正解は一つではなく、これらの要素が混じり合って「あいつ」というキャラクターが形成されているのではないでしょうか。だからこそ、これほどまでに多くの人の心を打つのだと言えます。
『Pleasure』が30年以上愛され続ける理由
『Pleasure ~人生の快楽~』が名曲とされる理由は、単に歌詞が変わる面白さだけではありません。 変わっていく「あいつ」の状況に対し、サビで繰り返される「変わらない覚悟」との対比が鮮やかだからです。
「止まれないこの世界で 胸を張って生きるしかない」
このフレーズは、1991年から一度も変わっていません 。 独りになろうが、旅に出ようが、守るものができようが、世界は止まってくれない。その無常な流れの中で、それでも前を向いて生きていくしかない。この普遍的なメッセージは、20代の頃には焦燥感として、50代になった今では達観した決意として、聴く年代によって異なる響きを持って私たちに届きます。
変化を受け入れながら、芯の部分ではブレない。それはまさに、音楽スタイルを柔軟に変化させながらも、ロックバンドとしての魂を貫き通してきたB’zの姿勢そのものです。

まとめ:次の5年、あいつと私たちはどう変わるのか
『Pleasure ~人生の快楽~』における「あいつ」の35年間を振り返ってきました。
- 90年代:社会のレールに乗り、そして脱線した苦悩の時代。
- 00年代:自分探しのために彷徨い、大切なものを見つけた再生の時代。
- 10年代~現在:利他の心を知り、再会の喜びを分かち合った成熟の時代。
2023年の歌詞で「人はいつからだって新しくなれる」と高らかに宣言されたことで、この物語は一つの美しい結末を迎えたようにも見えます。しかし、人生はまだまだ続きます。
次のPleasureツアーが開催されるのは、おそらく5年後の2028年、B’z結成40周年のタイミングでしょう。その時、「あいつ」はどんな顔をして現れるのでしょうか。そして、私たち自身はどんな5年間を過ごし、どんな気持ちでその歌詞を受け止めることになるのでしょうか。
「あいつ」に負けないよう、私たちも止まれないこの世界で、胸を張って生きていきましょう。次の再会を、心から楽しみにしながら。


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