「B’z LIVE-GYM 2022 -Highway X-」は、B’zの長い歴史の中でも極めて特殊であり、ファンの記憶に深く刻まれる伝説的なツアーとなりました。最大のトピックは、ニューアルバム『Highway X』の発売前にツアーがスタートしたことです。通常であればアルバムを聴き込んでからライブに臨むのが定石ですが、このツアーでは新曲のほとんどをライブ会場で初めて耳にするという、未知の体験が待っていました。
さらに、当時はまだ新型コロナウイルスの影響が色濃く残っており、観客は声出しが禁止されていました。加えて、ツアー終盤には稲葉浩志さんの新型コロナウイルス感染疑いにより、千秋楽を含む一部公演が延期になるというアクシデントも発生しました。しかし、そうした数々の困難や制約があったからこそ、バンドと観客の絆がより強く結びつき、奇跡的なドラマが生まれたツアーでもあります。
この記事では、未曾有の状況下で開催された「Highway X」ツアーの感想を、セットリストの魅力やサポートメンバーの活躍、そして伝説となった千秋楽の模様を交えながら詳しく振り返っていきます。映像作品(Blu-ray/DVD)の購入を検討している方へのレビューもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
異例の「ライブ先行型」となったアルバム『Highway X』の戦略
2022年8月10日にリリースされた通算22枚目のオリジナル・アルバム『Highway X』は、B’zのキャリアにおいて前例のないアプローチがとられました。それは、アルバムの発売前に全国ツアーをスタートさせ、収録曲の全貌をライブ会場で初めて明らかにするという手法です。
音楽の視聴環境がストリーミング配信へと移行し、誰でも手軽に新曲を事前に聴ける現代において、「生のライブ空間で初めて新曲を体感させる」という試みは、極めて大胆な挑戦でした。観客は予備知識がない状態で演奏に身を委ね、そこで得た感動をステージ上のメンバーと共有しながら楽曲を育んでいく。そんな「音楽の原点」に立ち返るような体験が、このツアーの根底には流れていました。
また、パッケージ版の特典も非常に話題を呼びました。初回生産限定盤には、ライブ映像を最速で収録したDVDや豪華なフォトブックレットに加え、「カセットテープ」が封入されていました。このカセットテープには、タイアップ楽曲の別バージョンや過去のオンラインライブでの貴重な音源が収録されており、アナログメディアならではの温かみと所有する喜びを満たしてくれるアイテムとして、ファンから高い評価を得ました。こうしたパッケージ戦略も含め、「Highway X」は音楽の届け方そのものを再定義するプロジェクトであったと言えます。

新生B’zサウンドを牽引したサポートメンバーたち
今回のツアーを語る上で欠かせないのが、一新されたサポートメンバーの存在です。B’zのライブの核となるのはもちろん松本孝弘さんと稲葉浩志さんですが、新しいバンド編成がもたらした化学反応は、従来の楽曲にも新たな息吹を吹き込んでいました。
- ギター/アレンジャー:YUKIHIDE “YT” TAKIYAMA
- ベース:清
- ドラムス:青山英樹
- キーボード:川村ケン
YTさんは近年のB’zの楽曲制作において欠かせないキーマンであり、ライブでも松本さんとの緻密なギターアンサンブルや独創的なソロプレイを披露し、サウンドに現代的なエッジを加えていました。ベースの清さんは、その華やかなルックスと攻撃的なスラップベースで強烈なインパクトを残しました。特に「ultra soul」の間奏などで見せた、芯のある図太いグルーヴは会場の空気を一変させるほどの迫力がありました。
また、ドラムの青山英樹さんは、精密かつダイナミックな打撃でスタジアム級のスケール感を演出し、中盤のドラムソロでは会場を揺るがすほどの圧倒的なパワーを見せつけました。キーボードの川村ケンさんは、多彩な音色で空間を彩り、アンサンブルに深みを与えつつ、MCでも気さくなキャラクターで会場を和ませてくれました。この4人の強靭なサポートがあったからこそ、「Highway X」という未知の旅路はより刺激的でエキサイティングなものになったと確信しています。

【感想】ライブ本編のハイライトとセットリストの魅力
「Highway X」ツアーのセットリストは、未発売のニューアルバムの楽曲を軸にしつつ、ファンの期待に応える定番曲やレア曲を絶妙なバランスで配置した構成でした。ライブは、静寂を切り裂くようなギターリフが印象的な「SLEEPLESS」から幕を開けました。雷鳴のようなサウンドと稲葉さんの圧倒的なボーカルが響き渡った瞬間、観客は一気にB’zの世界へと引き込まれました。
声出しNGを逆手に取った演出とメッセージ
コロナ禍による声出し制限がある中、B’zは視覚的な演出と楽曲に込めたメッセージで観客との心の共鳴を図りました。ステージにはツアータイトルを象徴する巨大な「X」のオブジェが設置され、楽曲の展開に合わせてダイナミックに昇降・回転することで空間の奥行きを演出していました。また、新曲であっても観客が世界観に没入できるよう、歌詞を巨大モニターに字幕として大きく表示する工夫が凝らされていました。
特に印象的だったのは「Thinking of you」や「YES YES YES」のパフォーマンスです。「Thinking of you」では、歌詞の一部を「私達に会えてよかった」と変更して歌い、稲葉さんが満面の笑みを見せる場面がありました。「YES YES YES」は、いつかまたみんなで声を出して歌える日を願って制作された楽曲であり、歓声の代わりに力強い手拍子だけで応える観客の熱量と、ステージ上のバンドの熱量が静かに、しかし確実に交わっていた感動的な瞬間でした。

名曲群とアルバム収録曲の融合
中盤から後半にかけては、「ultra soul」や「イチブトゼンブ」、「兵、走る」といった誰もが知るヒット曲と、『Highway X』の新しい楽曲群が見事に融合していました。初期に制作されたというミドルテンポの「Daydream」や、アコースティックギターの音色が心地よい「山手通りに風」など、多彩なアプローチの楽曲がライブのテンポを巧みにコントロールしていました。
松本さんのソロコーナーでは、ソロアルバム『Bluesman』に収録されている「漣 < sazanami >」が披露されました。静寂の中で奏でられる繊細なハーモニクスと、徐々に熱を帯びていくストーリー性のあるギタープレイは、激しいロックショーの中に気品ある芸術性を持ち込み、観客を深く魅了しました。
伝説となった千秋楽・ぴあアリーナMM公演の奇跡
本ツアーの物語性を決定づけたのは、なんと言っても延期を経て11月に開催された千秋楽、ぴあアリーナMM公演での出来事です。この公演は、B’zのライブ史に末長く語り継がれる伝説の一夜となりました。
稲葉浩志の完全復活と圧倒的なパフォーマンス
8月に予定されていた公演の延期が発表された際、多くのファンが稲葉さんの体調と喉のコンディションを心配しました。しかし、約3ヶ月の時を経てステージに戻ってきた稲葉さんは、その不安を完全に払拭するどころか、過去最高レベルとも言える絶好調のボーカルを披露しました。
年齢を感じさせない声の突き抜け方、そして繊細なバラードから激しいハードロックまでを自在に歌いこなす圧倒的な表現力は、「今が全盛期である」と多くのファンに確信させるものでした。MCで「一本のライブをやれることは奇跡だと気付いた」と語り、「ライブは尊いものです」と真っ直ぐに感謝を伝える姿からは、音楽に対する誠実さと揺るぎないプロフェッショナリズムがひしひしと伝わってきました。

機材トラブルを歓喜に変えた「裸足の女神 Part2」
千秋楽を伝説にしたもう一つの要因が、「裸足の女神」での機材トラブルと、それに対する粋な対応です。本来の演出では、演奏中に稲葉さんがステージ裏の通路に移動し、ツアートラックの模型や全国のファンから寄せ書きされた「Highway X」の巨大モニュメントをカメラで映し出しながら歌う予定でした。しかし、まさかの機材トラブルにより、その映像が会場のモニターに一切映し出されないという事態が発生してしまったのです。
そのままライブは進行しましたが、アンコールの場面で稲葉さんが「本編で見せられなかったのが悔しくて」と切り出し、急遽「裸足の女神」をもう一度最初から演奏するというサプライズが敢行されました。「Part 2」と銘打たれたこのリベンジ演奏は見事に成功し、会場はポジティブな歓喜の渦に包まれました。予期せぬトラブルさえも極上のエンターテインメントへと昇華させてしまう彼らの懐の深さに、誰もが胸を打たれました。
映像作品(Blu-ray/DVD)のレビューと購入時の注意点
この感動的な千秋楽の模様は、2023年6月に『B’z LIVE-GYM 2022 -Highway X-』としてBlu-rayおよびDVDで映像化されています。ここでは、実際に映像作品を鑑賞した感想と、購入を検討されている方への注意点をまとめます。
- トラブルを含めた完全収録:「裸足の女神」の機材トラブル発生時のリアルな状況から、アンコールでの「Part 2」再演奏までがノーカットで収録されており、当日のドキュメンタリーとしても非常に見応えがあります。
- 圧倒的な映像美と音響:メンバーの細かな表情や、サポートメンバーの卓越したプレイを様々なアングルから堪能できます。配信ライブでは気づけなかった細かな音の重なりまで鮮明に味わうことができます。
映像作品としての完成度は極めて高く、会場で体感した熱気をそのまま自宅で再現できる素晴らしい仕上がりです。特に、トラブルが起きた際の稲葉さんの戸惑う表情や、それを瞬時にリカバーしようとするバンドの結束力など、生々しい臨場感がダイレクトに伝わってきます。
ただし、購入にあたって一点だけ注意しておきたいのが「パッケージの仕様」についてです。従来のB’zの映像作品では、ライブ写真を収めた豪華なフォトブックレットや歌詞カードが封入されていることが多かったのですが、本作にはそういった紙媒体の特典が一切封入されておらず、ディスクのみという非常にシンプルな仕様になっています。手元に届いた際、「不良品や欠品ではないか?」と戸惑うファンもいたようですが、これが通常仕様ですのでご安心ください。パッケージはシンプルですが、その分、映像と音のクオリティに全精力が注ぎ込まれています。

おわりに:B’zが示した現在進行形のロックスピリット
「B’z LIVE-GYM 2022 -Highway X-」は、未曾有のパンデミックという混沌の時代において、決して立ち止まることなく前に進み続けるB’zの強靭なロックスピリットを体現したツアーでした。アルバム発売前のライブ敢行、声出しNGという制約、そして公演延期と予期せぬ機材トラブル。これらの予測不能な事態(まさに「X」)を全てプラスのエネルギーに変換し、最高のエンターテインメントを創り上げた姿は圧巻の一言です。
新しいサポートメンバーとの融合によってサウンドはさらに進化し、松本さんと稲葉さんのパフォーマンスは円熟味を増しながらも常に最新型を提示し続けています。このツアーで培われた強固なバンドアンサンブルとファンとの絆は、見事に翌年の結成35周年記念ツアー「STARS」へと繋がっていきました。
映像作品を通じてこのツアーを振り返るたびに、音楽が持つ力と、ライブという空間の尊さを再認識させられます。まだご覧になっていない方は、ぜひBlu-rayやDVDを手に取り、B’zが駆け抜けた「Highway X」の奇跡の軌跡を体感してみてください。


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